こんにちは、
ともやんです。
ドイツ・グラモフォン創立125周年記念として同レーベルに残されている膨大な録音から100タイトルが、4月と5月に発売されます。当然再販のものばかりですが、高品質のSHM-CD仕様で価格も手頃なのが嬉しいです。
ということでドイツ・グラモフォンという中学生の時からもっとも親しんできたレーベルなので厳選された100タイトルについてあーだこーだと記します。
もし自分が不治の病を宣告されたら
僕は高校を5年制の国立高専に通っていました。いずれは技術者としてメーカーなどに就職するものだと思っていました。しかし、多感な時期でしたから読んだの本の影響で、東京の大学に行きたくなり、3年で退学しました。3年を修了していれば大学受験の資格があったのです。
その時、通学路が一緒の同じクラスの友人がいました。陸上部で小柄な僕より二回りもりっぱな体格の持ち主でした。ある日、僕が高専を止めて大学に行きたい、と言ったら「俺の分まで頑張ってくれ」と言われました。あれから50年近く年月を経ました。
彼は45歳で他界。
友人からの連絡で知りました。癌だったがみんなと飲みに行けるまでに回復したと聞いていた矢先でした。彼の言った言葉「俺の分まで頑張ってくれ」が甦ってきました。大したことは出来ないけど、お前の分まで生きてみるよ、と心のなかで答えました。
もし自分が不治の病を宣告されたら、どう感じるのか?「なんで俺に?」と不運を呪うだろう。なかなか受け入れられないと思う。
フリッチャイ 走り抜けた凝縮の時間
フェレンツ・フリッチャイ(1914-1963)は、ハンガリーはブダペストの音楽一家に生まれました。幼少期から才能を発揮し、なんと15歳で指揮者デビューしています。戦後30歳になったばかりでブダペスト国立歌劇場にもデビュー、47年のザルツブルク音楽祭では、急病のクレンペラーの代役でオペラを指揮し大成功を収め、俄然注目を浴び、売れっ子指揮者としてベルリン放送響の音楽監督に就任し、カラヤンのベルリン・フィルに対抗するまでに育てました。
この頃の録音は、覇気溢れる溌剌として演奏を聴くことができます。
しかし、フリッチャイは、1957年から、つまり43歳頃から白血病との苦しみと闘いながら残された時間をコンサートや録音などの音楽活動に続けていきました。
まだ40代というのに風貌は晩年のフルトヴェングラーにようになり、音楽はテンポは遅くなり内容は深くなり、普通の指揮者なら10年、20年と時間をかけて増していく円熟期をまるで疾走するように駆け抜けていきました。
今回聴いたベートーヴェンの第九は、ちょうど白血病とわかった直後頃と思います。
第1楽章の深淵な内容と終楽章の颯爽とした印象が同居する貴重な録音。もしかしてこの時期にしか聴けない演奏だったかもしれません。
しかも不世出のバリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの名唱が聴ける唯一の第九。あまりの上手さと味わいでここだけ何度も聴きたくなるほどです。
フリッチャイの普通の指揮者なら人生70年、80年を掛けて到達した境地を僅か48歳で走る抜けて凝縮の時間を聴く頃が出来る演奏です。
フリッチャイ 名盤 ベートーヴェン交響曲第9番
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン – Ludwig van Beethoven (1770-1827)
交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」 Op. 125
Symphony No. 9 in D Minor, Op. 125, “Choral”
作詞 : フリードリヒ・フォン・シラー – Friedrich von Schiller
1.(16:41) I. Allegro ma non troppo, un poco maestoso
2.(10:32) II. Molto vivace
3.(10:00) III. Adagio molto e cantabile – Andante moderato
4.(06:13) IV. Presto –
5.(17:00) IV. Finale: Presto – Allegro assai
total(60:26)
イルムガルト・ゼーフリート – Irmgard Seefried (ソプラノ)
モーリーン・フォレスター – Maureen Forrester (コントラルト)
エルンスト・ヘフリガー – Ernst Haefliger (テノール)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ – Dietrich Fischer-Dieskau (バリトン)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 – Berlin Philharmonic Orchestra
フェレンツ・フリッチャイ – Ferenc Fricsay (指揮)
録音: January 1958, Jesus-Christus-Kirche, Berlin, Germany
ベートーヴェン 交響曲第9番≪合唱≫、≪エグモント≫序曲 フェレンツ・フリッチャイ ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1963年に48歳の若さでこの世を去ったハンガリーの指揮者フェレンツ・フリッチャイ。
ベルリン放送交響楽団のシェフとして数多くの名演を残したフリッチャイですが、同じ西ベルリンのベルリン・フィルの指揮台にもたびたび招かれました。
本盤に収められたベートーヴェンの交響曲第9番と《エグモント》序曲もそうした両者の共演のひとつで、フリッチャイの理知的な解釈とベルリン・フィルから引き出される緊張感に満ちたサウンドがなにより魅力的です。
名バリトンのフィッシャー=ディースカウが参加した唯一の第九セッション録音としても貴重な1枚です。
コメント